セルロースナノファイバーは、植物の細胞壁を解きほぐすことで得られる、高強度かつ低熱膨張性のナノ材料です。私はセルロースナノファイバー材料の成形加工技術を発展させ、環境負荷の小さな高性能材料を形成することを目指しています。
木材由来セルロースナノファイバーのみからなる透明な板材

セルロースナノファイバーから、ガラス並に透明で、金属並に強度が高い、透明なシート状材料を形成できることが知られています。しかし、この透明シートの成膜プロセスは希薄なナノファイバー分散液の乾燥に限られ、厚み数十µmの薄膜しか得られません。セルロースナノファイバーから板材が作製できれば、輸送機器や建築物の部材として活用できる、透明な構造材料 (フレーム、柱や壁など) が誕生するかもしれません。
我々は、セルロースナノファイバーのシートを多重に積層・接着することで、ミリメートル厚の透明な板材を形成することに成功しました。シート同士の接着には、セルロースナノファイバー自身の自己接着力 (水素結合・分散力) を活用しました。つまり、得られた材料はオール・セルロースナノファイバー板材です。この板材は、ガラスやプラスチックなどの既存の透明材料より強く、その強度はアルミニウム合金やガラス繊維強化プラスチックなどの構造材料と同等でした。また驚くべきことに、木材由来にも関わらず優れた自己消火性を示しました。
いつの日か、これらの特性を兼ね備えた環境に優しい板材が、透明な自動車や航空機など、新たな構造物のデザイン設計に貢献することを夢見ています。
関連研究
- Shun Ishioka, Noriyuki Isobe, Takayuki Hirano, Nobuhiro Matoba, Shuji Fujisawa, Tsuguyuki Saito, “Fully Wood-Based Transparent Plates with High Strength, Flame Self-Extinction, and Anisotropic Thermal Conduction”, ACS Sustainable Chem. Eng., 11(6), 2440–2448, 2023.
- Shun Ishioka, Takayuki Hirano, Nobuhiro Matoba, Noriyuki Isobe, Shuji Fujisawa, Tsuguyuki Saito “Property-Thickness Correlations of Transparent All-Nanocellulose Laminates”. J. Fiber Sci. Technol., 79(7), 156-164, 2023.